私は天使なんかじゃない








陽気なグールと女トレジャーハンター







  どんな場所でも。
  どんな状況でも。
  人との出会いはあるものだと思う。






  そこは地下にあった。
  昔のシェルターなのか、それとも資材置き場なのかは分からないけど地下にある空間。
  それが私を救ってくれた人物の住処。
  それほど広くはない。
  個人用シェルターなのかもしれない。4人家族が暮らすには適している広さだとは思う。そこで暮らしているらしい、彼ら。
  グールの男性。
  白人の女性。……いや、女の子。多分私より若いと思う。同じぐらいかな?




  「改めてお礼を言うわ。ありがとう」
  頭を下げた。
  場所は地下シェルターの中。
  私は勧められるままにソファに身を沈めている。……あー。トロッグとの追いかけっこは疲れたー。
  救ってくれたのはグールの男性と白人の女の子。
  2人もここにいる。
  何者かは不明。
  ただ私に敵意がないとは……思う。
  トロッグを撃退してくれたし。
  それにしても思うのはあれだけの数のトロッグが光で即死する理屈が分からない。
  グールの男性に聞いてみる。
  「あれはどういう原理なの?」
  「何がだい?」
  「光でトロッグが死んだけど」
  「あいつらは闇の中に潜む連中なんだよ。光が嫌いなんだ。強烈な閃光は奴らの心臓を麻痺させる。ショック死させるってわけだ」
  「ふぅん」
  「おおっと挨拶が遅れたな。俺はスマイリー。よろしくな」
  「ミスティよ」
  自己紹介。
  人と人との出会いには必要なものです。少女は、青く髪を染めた少女は部屋の隅に座り込んで銃を弄っている。
  ピットのゲートで初めて見た銃だ。
  発射音が静か、銃身がスマートでエレガント、それでいてシンプル。そしてパワフル。
  あの銃はピットの特産なのかな?
  持ち帰りたいものだ。
  「あの銃の名前は?」
  スマイリーに聞く。
  少女は忙しそうだし。そもそも口聞いてくれなさそうなオーラ出してるし。
  「あの銃が気になるのか?」
  「うん」
  「という事はあんたはピット出身じゃなくて他所から買われた奴隷って事か? それも日が浅いんだろう。だろう?」
  「まあ、そうね。奴隷じゃないけど」
  「どういう事だ?」
  「それは置いといて。思い出すと腹立つし。……で、あの銃は?」
  「インフィルトレイターって名前の銃さ」
  「インフィルトレイター」
  「ああ。この街で生産されている銃だ。キャピタル・ウェイストランドで流通しているアサルトライフルよりも強力だ。向うじゃまずこいつは手に入らない」
  「でしょうね。初めて見たもん」
  この街で生産してるのか。
  ふぅん。
  つまり製鉄所で作ってるのはこれ?
  かなりの技術力を有している街らしい。
  「輸出してるわけ?」
  「あの銃をか?」
  「うん」
  「いや、そうじゃないらしい。あの銃はボス用だ」
  「ボス用?」
  「レイダーのボスだよ。奴隷王アッシャーに従うボス達だけがインフィルトレイターを所持出来るのさ。もっともボスといっても10名の部下を従える
  程度だけどな。ボスは1人の副官と9名の部下を率いてるんだ。まあ、ボスというよりは小隊長だな」
  「ふぅん」
  支配体制は完璧なのか。
  ただの奴隷に横暴なだけのレイダー集団ではなく統率されているのかもしれない。
  「アッシャーは軍隊を抱えてるんだよ」
  「ぐ、軍隊?」
  「ああ。この街を狙うレイダーやそこら辺にいるレイダーを併呑して勢力を伸ばしている。いずれはキャピタル・ウェイストランドや連邦を襲うと豪語し
  ているらしいぞ。まあ、俺は大抵ここから動かないからデマなのか本当なのかは知らんけどな」
  「へー」
  奴隷王アッシャー。
  ワーナー曰く『奴隷を働かせて君臨している悪の王』的な人物らしいけどカリスマ的でもあるのかもしれない。
  まあ、私は関係ないですけど。
  いずれにしても奴隷王アッシャーは奴隷を使って銃火器を量産しているわけだ。
  レイダーの組織化もしてるらしい。
  なかなか物騒な街ですなぁ。
  「スマイリー」
  「何だ?」
  「どうして助けてくれたの?」
  「はあ? 困った人がいたら助ける、それが世の中の常識だろ? 俺はその通りしただけさ。世の中の人に笑顔であって欲しい、それが俺の名の由来さ」
  「スマイルってわけね」
  「そうさ」
  「あはは」
  なかなか楽しいグールだ。
  ピットに来てまだ初日だけど、まともな人物に飢えてた私。
  第一印象はワーナーもミディアも最悪でした。
  あー、癒されるー。
  「スマイリーはここで暮らしてるの?」
  シェルター内を見渡しながら聞く。
  生活用品が溢れている。
  銃火器、弾薬、食料品、ベッドもある。
  壁際に備え付けられた棚にはたくさんの瓶がある。
  お酒か。
  リッチな生活を送ってるんだなぁ。
  「ははは。結構溜め込んでるだろ? 奥には風呂もあるぞ。俺はここに住んでるんだ。二年ぐらいになるかな」
  「二年」
  最近か。
  ずっと住んでるわけじゃあないわけか。
  ……。
  ……あれ?
  そういえばピットの街ではグールは見なかったな。
  放射能汚染で人間はトロッグになる、だけどグール云々は聞いた事がないなぁ。そりゃピット初日。まだ知らない事ばかりだ。
  グールの奴隷はいないのかな?
  聞いてみる。
  「スマイリーはピットの街とは……」
  「関係ないよ」
  「ならどうしてここに?」
  「本当はアンダーワールドに行きたかったんだ。ただDCはスーパーミュータント、タロン社、BOSが抗争してて行けなかったんだよ。アンダーワールド
  に到達するまでが物騒でな。それで理想の場所を探して旅してたのさ。で結局スチールヤードに落ち着いたってわけだ」
  「ふぅん」
  「そもそもピットの街にはグールはいないんだよ。それは観察してて分かった」
  「グールがいない?」
  「ああ」
  「そりゃまたどうして?」
  「この街はトロッグに怯えてる。グールの奴隷が街をうろつくのが嫌なんだと思うよ」
  「ふぅん」
  「補足までに言っておくけどこの街では人間はグール化はしないらしい。放射能の濃度が異なるし、この街には特有の廃液がそこら辺に流れてる。
  その影響でグールではなくトロッグになるらしいぞ。どうだ、参考になっただろ?」
  「ありがと、先生」
  「はははっ!」
  陽気なグールだ。
  聞けば彼はここでハンティングしたりして過ごしているらしい。
  ハンティング対象はトロッグ。
  特に意味はないらしい。
  暇潰しみたい。
  食料やお酒等はたまにピットの街の備蓄倉庫から失敬してくるらしく特に困ってはない模様。
  いいなぁ。ここ。
  私もピットの街でミディアに扱きつかれない為にもここに住まわせて貰おうかな。
  そうしてる内に迎えが来ると思うし。
  ……。
  ……多分ね。
  もっとも来なきゃ来ないで自力で帰るけどさ。
  武器や物資の調達さえ出来れば自分でメガトンに帰れる。
  PIPBOY3000は取り戻したわけだし。
  「トロッグは忌々しいよ。スーパーミュータントのように同類と思ってくれないし、フェラルのように同族だとも思ってくれない。襲ってくるんだ」
  「へー。なんか不思議な感じがする」
  「だろ?」
  「さっきの話の流れで分かるけど、スマイリーはキャピタル・ウェイストランドの出身よね?」
  「そうだよ」
  「メガトン知ってる?」
  「おお。知ってるぞ」
  「よかったぁ。親近感湧くなぁ」
  ホームシックなミスティちゃんです。
  異郷の地で1人。
  なかなか寂しいものがあるのは確かです。
  「ところでスマイリー。そこの彼女は誰?」
  「ああ、彼女はシーだ」
  「シー?」
  変わった名前だ。
  「シーリーンよ。シーは愛称」
  青い髪の女性はぶっきらぼうに答えた。
  「悪いけど疲れてるの。……無報酬だったし。無報酬だったし。無報酬だったし」
  「……」
  三回言った。
  彼女はニヤリと笑う。
  なるほど。礼金を所望しているらしい。だけど無一文だ。
  「悪いけどキャップは持ってないです」
  「じゃあそ腕のやつを頂戴」
  「PIPBOY3000を?」
  「そう」
  無理です。
  これは大切な財産。ボルト以外では手に入らない代物。例えお礼の品として必要でも私は拒否します。
  「助けたんだから頂戴」
  「駄目」
  「けちぃーっ!」
  「……」
  少し訂正。
  ぶっきらぼうな奴かと思ったけど意外に明るい。歳相応かな。
  「ちぇっ。ケリィがしてたやつを見た時からそれ欲しかったんだけどなぁ」
  「ケリィ?」
  聞いた名前だ。
  ……。
  ……あー、ビッグタウンで放置したままだった。あいつに報酬払い忘れたし。
  まあ、いいかー(笑)。
  シーはキョトンとした顔で聞く。
  「ミスティは知ってるの? あのセクハラ親父のケリィを?」
  「確かアウトキャスト専属スカベンジャーとかいう通り名のメタボの親父でしょ?」
  「そうそうっ!」
  「知ってるわ」
  「へー。世の中って広いようで狭いのねぇ。……それにしてもあいつを知ってるなんて奇遇よね。えっと、ミスティだっけ?」
  「そう」
  「ミスティ。あいつの知り合いなら、あいつに貸した金あんたが払って」
  「はっ?」
  「貸した金&あんたを助けた礼金の合計3000キャップ也ー☆」
  「……お金持ってないって」
  「じゃあ体で払ってね」
  「はい?」
  「あたしはさ、トレジャーハンターなわけよ。この街に来たのは何かお宝があるかなって感じね。いつか手伝ってよ」
  「ああ、そういう意味ね。分かった」
  「よしよし。良い子は好きよ、あたし」
  おそらくは同年代。
  そんな奴に子供扱いされるのは正直面白くない。まあ、嫌悪感はないけどさ。
  「シーリーン」
  「シーでいいわ。あんたはあたしの子分だけど特別に愛称で許してあげる」
  「誰が子分よ誰がっ!」
  「命助けてあげたでしょ? 恩義に感じてないわけ?」
  「そういうわけじゃ……」
  「ほら、だったらあたしの子分にならなきゃね。それが人間が護るべき節度ってやつでしょ?」
  「……」
  すいません嫌悪感が芽生えました。
  シーはにんまりと笑う。
  確かにワーナーやミディアとはまた異なる性格だし押し付けがましくはないけど……うーむ、こいつの性格もあまり誉められたもんじゃないぞ。
  まあ、嫌味がないからまだマシかなぁ。
  うーん。
  何気にまともな性格のキャラが登場しない小説だと思う今日この頃。
  癖ある奴ばっか。
  うにゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ頼むから正統派の正義の味方を出してくれーっ!
  おおぅ。
  「で子分のミスティはここで何してんの?」
  「……」
  「奴隷じゃないんでしょ?」
  「まあ、そうです」
  「観光?」
  「観光じゃあないです」
  「だよね。ここに来るのは奴隷とレイダーぐらいだからね。……まさかあんた真性Mで自分から奴隷になりに来たってやつ? うっわヤラシー☆」
  「……」
  殴るのは駄目ですかね?
  命を助けられてる恩義もあるからここは抑えるとしよう。
  そうじゃなきゃ殴り倒してるわよ。
  まったく。
  「ねっ? ねっ? ねっ? やっぱ鞭で叩かれるだけでも感じちゃうの?」
  「……殺すわよ」
  「はいはい」
  エロか。
  エロなのかこいつはーっ!
  クリスとはまたエロのジャンルが異なる気がするけど……いずれにしてもエロなのは確かです。この手の話は好物なのかスマイリーはニヤニヤと笑い
  ながらお酒を飲んでいた。やらしぃ男は好きではないけどグールには生殖能力はない。そういう意味では安全かも。
  だからこそシーもここに住んでるわけだろうし。
  「それにしてもシー」
  「何?」
  「あんたはここで何してるの? どうして同居してるわけ?」
  「行く当てがなかったから転がり込んだだけよ。スチールヤードを彷徨ってたらスマイリーが助けてくれたのよ」
  「彷徨ってた……ここにお宝が?」
  「うーん。お宝といえばお宝よね。スチールヤードの製鉄所は崩壊しているとはいえ様々な機器の残骸がある。BOSとかOCが高く買ってくれるけど
  さすがに持ち出すのは困難。お宝ではあるけど、お宝ではないかなぁ。ただインフェルトレイターだけは持ち帰りたいかな」
  「ふぅん」
  「まあ、ここは天罰で吹っ飛んだからあまりお宝はないけどね」
  「天罰?」
  ミディアからも聞いたような。
  それって何?
  「天罰って一体何なの?」
  「あたしもミスティと同じキャピタル・ウェイストランドの出身だからよくは知らないけど……何でも昔ここはBOSに一掃されたらしいわよ」
  「何で?」
  「ミュータントが溢れてたんだってさ」
  「へー」
  「もっともワーナーやミディアが言うには、この街のテクノロジー欲しさだったらしいわよ。そのテクノロジーを得る為にミュータントが邪魔だった、
  またはミュータントかしつつあった住民も目障りだった、だから一掃したらしいわよ。向うじゃ英雄のBOSもここではレイダー以下ってわけ」
  「ちょっと待って」
  「何よ、まさかあんたBOS信者?」
  「いや。そこじゃなくて」
  「じゃあ何?」
  「ワーナーとミディアを知ってるの?」
  「まっさかあんたもあたしと同じなわけ? ワーナーに体よく利用されてこの街に送り込まれたってわけ? ……あたしと同じじゃんか」
  「……マジか」
  あの野郎っ!
  定期的に使えそうな人間を送り込んでるんじゃないでしょうねっ!
  万死に値するわーっ!
  「ミスティ、あたしと組まない?」
  「組む?」
  「この街は今混乱してる。別にワーナーの奴隷解放劇はどうでもいいのよ。ともかく、それは儲かる。どう? この街で一山当てない?」
  「それは断るわ」
  「何で?」
  「人の生き死にで一山当てるのは好きじゃない」
  「変な奴。この街に恩義なんてないでしょうに」
  「そこはそれよ」
  人の価値感は人それぞれ。
  別にシーの考えは変とは言わない。だけどそれは彼女の価値観であり私の価値観ではない。
  じゃあワーナーの手駒でいる?
  もちろんそのつもりはない。
  だけどこの街をもうしばらく見ようかとは思ってる。関る関らないは、また別の話だけどね。
  ブツブツとシーはぼやく。
  「見所あるかと思えば理想主義者かよ。ワーナーと同じじゃん。嫌いなんだよなぁ、こういうタイプ」
  聞こえてます。
  聞こえてますとも。
  独り言なら人に聞こえないようにするものでしょうよ。
  特に話題のその本人に対してはね。
  それにしても……。
  「ワーナーが理想主義者ねぇ」
  そうなの?
  そうは思わないけどなぁ。
  まあ、もしかしたらシーには熱っぽく話をしたのかも知れない。色々なキャラ性を使い分けてピットに送り込んでいるのだろう、多分。
  私の場合は拉致でしたけどね。
  「ともかくだ」
  スマイリーが口を開く。
  陽気な口調だ。
  「女性が2人、まさに華やかな場面。今日はここで3人で酒でも飲んで騒ごうぜ。ミスティの目的は鉄のインゴットだろ? 俺には特に使い道はない
  けどある程度は溜め込んであるんだ。これで探す手間が省ける、つまり費やすはずだった時間を飲食に回せるってわけだ。さあ、騒ごうぜ」
  「あははははっ」
  スマイリー、嬉しそうです。
  結構寂しがり屋なのかもしれないなぁと思いながら私は笑った。
  「もちろんスマイリーの奢りよね?」
  「当然さぁ。シーもビジネスパートナーの相手に恵まれない事を忘れて飲んで騒ごうぜ」
  「相変わらず宴好きよね、スマイリー」
  「それが俺のモットーさぁっ!」















  その頃。
  スチールヤードの廃棄された施設の中。


  「ミディアは予定通りに動いているのか、ジェリコ?」
  「ええ。この間会ってきましたけど予定は順調だそうですぜ、旦那。……ああ、俺の顎を砕いた寝相の悪い女はスチールヤードで仕事らしいですぜ」
  「鉄のインゴット集めか。ここにいるのか?」
  「ええ。その通りで。……何かこちらで手を加えますかい?」
  「……」
  「旦那」
  「いや、いい。あの女はビットの希望だ。しばらくは踊ってもらうとしよう。……しばらくはな。手を加えるのはその後だ。問題は?」
  「俺は傭兵だ。雇われている以上、旦那に従う。それだけですよ」
  「実に頼もしいな」